アタシ達は至ってフツーだ。

 惹かれて、語って、付き合って。

 アタシ達には、メロドラマも、ゼンセの巡り会いも、何もない。

 ――別に、欲しくなんて無いけどさ。

 

 冷彩蒼火〜アオイネツ〜

 

 青い空、蒼い風。

 蒼の情景、蒼の心情。

 セツナサ、サヨナラ、ブルー、ブルー。

 

「ねぇ、私たち、もう終わりじゃない?」

 アタシは言った。脈絡もなく、前振りもなく。

「え、なんで?」

 返ってくるのはノーテンキな声。

 ああ、嫌だイヤだ。コイツのこういうところが嫌いだ。

 何を言っても暖簾に腕押し、コイツには何も通じない。

 きっとコイツにはアタシなんかはどうだっていいんだ。そうに決まっている。

「全部貴方が冷たいからじゃないの!付き合ってから半月、貴方は何もしてくれないじゃない。
手を繋いだり、一緒に帰ったりするだけ。先週はオフだったのに、デートにも誘ってくれなかった!」

「・・・・」

「お互いに好き合ってたハズなのに、どうして・・っ。」

「・・・・・・・・」

「――こんなハズじゃ、なかったのに。前は好きで、スキで仕方なかっ、たの、に。アタシの心は熱くて、熱くて、真っ赤だったの、に・・ッ。」

 ちくしょぉカッコワリぃ。私はとうとう泣き出してしまった。

 ココロがぐらぐらする。頬を伝う、しょっぱい雫。

 悲しみに凍ったココロの雫。

 蒼い、蒼い、アタシのかけら。

 

「きっと、いまのアタシは貴方の冷気に晒されて真っ青なんだわ。
 凍って、腐って、きっと何も、もう感じない。」

 冷たい言葉。凍てつく言葉。

とまれよ、ちくしょお。アタシはまた涙を零す。

「・・・・」

 アイツは立ち止まって、アタシを見つめる。

 アイツは欧日ハーフ。だから瞳は蒼い。

綺麗なガラス玉の色。吸い込まれそうなくらい透きとおった球体。

 

ぺろり・・

 

あたたかな感触が頬を過ぎった。

と同時に、鼻孔を甘い薫りが、ふわ、と撫でた。

身体の脈々がどくん、どくん、と暴れ出す。

 アタシは呆気にとられ、アイツの顔を見返す。

「・・大丈夫だよ。」

 アイツは微笑みながら呟いた。

「・・何がよ。」

「いや、君の涙は、温かかったからさ。」

 ナニ言い出すんだよ。

「ほら、涙ってココロからこぼれ落ちるだろ?
 それが温かかった、てことはさ、ん。君の心も『温かい』って事じゃないかな?」

「・・何言ってンだか分かんないわよ!何なのよ、バカ。」

「つまり、君の心は凍ってるんじゃない。寧ろ燃えているんだ。
 だってさ、赤い炎より、蒼い炎の方がずっと熱いんだぜ。
 真っ青ってコトは、かなり熱いって事じゃん。」

「か、勝手なこと、言わないでよ。」

「勝手じゃあないさ。現に僕は君のことが大ッ好きだよ。それこそ『蒼い炎』のようにね。」

 真摯な碧眼がアタシを惹きつける。

 初めて会った時も、この蒼に魅せられた。

 目と目が近づく。その度にもっと、もっと奥が見えそうな気がする。

 もっと、もっと、もっと。アタシはアイツの中を覗こうとする。

「君の心が凍ったならば、僕の炎で熔かしてあげよう。」

 アイツの声がヤケに響いた気がした。

 

 Chu

 

「・・・・・・・・・!?」

 突然の口吻(くちづけ)

 唇を伝う、熱っぽい感触。

 柔らかで、滑らかにうねる、アイツの舌。

 あまい、やさしい、はげしい、あったかい。

 とくん、とくん・・すぐ耳元で鼓動が聞こえる。

頭の芯が、かーっ、と熱い。くらくらしてとろけそう。

 

「・・ぷは。」

 離れた唇。名残惜しくて、そっとなぞった。

 アタシの頭はまだ熱を帯びてる。

「・・どうかな、少しは熔けた?」

 いけしゃあしゃあと言うアイツ。

 狡いよ、そんなこと聞くなんて。

あんなキスをされちゃあ、

「・・うん。もぉすっかり。」

――離れられるワケないじゃない。

「そう、それは良かった・・♪」

 アイツはそう言って、安穏とした笑みを浮かべる。

「ファースト・キス、いぇーァ」

 アイツは色つき飴で真っ青な舌を、ぺろん、と出して笑った。

 海のように優しく、空のように何処までも澄みきって・・

 私もつられて笑ってしまう。

 ・・ただ、ちゃんと笑えているかは分からないけどね。

 

 蒼色が冷たいなんて、一体誰が言ったのかしら。

 蒼は空の色、海の色、幸せの鳥の色。

 そして、ゆらめく愛のいろ。


 この作品は突発性企画「蒼」に提出させていただいたモノです。
 幾数多ある綺麗な「蒼」のイメージの中から咄嗟に思いついたのが「蒼い炎」。
 赤熱に反する涼やかな「炎」。私はこういうアンチ系アンバランスは好きです。
 
 如何せんLvの高いサイトと企画なので、見劣りすることは必然でしょうが、まぁ、努力だけはかってやって下さい(激汗)
 また、機会があればこういった企画に参加していきたいモンです。
 読んでくれた皆様、ステキな他作者様方、そして発起人、平塚ミドリ様。ありがとうございました。