細雪 青雲
俺は、極普通の大学生、名を「伊波 脩平」と申す。ちなみに俺の性格は、冥王星なみの明るさと日のあたらない月の輝きのようなものだ。高校をむなしく暮らし、今は将来の見えない生活を送っているに等しい。
高校の担任は俺にこう言った「この高校に入ったまではよしとし、しかし無駄に過ごし敗北感を味わって卒業するのだけはやめろよ」……遠まわしに言えば俺に転校を勧めたのだ。あぁ〜あの時からすでに俺の未来は、泥に沈んでいったのかもしれない……。結局、高校万年後ろからTop10を極め卒業……敗北感しかない。
で、今に至った、大学も誰も知らないようなとこで……就職率なんか今の世の中一割にすぎない……。
まじで……暗くなるってもんだ……。親とも今じゃ勘当されちまったし……やんなるもんだ……情の欠片も俺に神は与えてくれないのか……。俺が、俺が何をまちがったというのだ!
さて、そんな愚痴で俺の自己紹介を終わりにする。少なくとも、将来見えずの生活だが大学にも友人はいる、バイトでも仲間はいる。人間誰しも誰かはいるものだろ? そんなもんさ。それに、このごろは大学でも主席を狙い始めている、いや狙える位置にきただけだがな。もちろん、主席をとったところで大手の企業などに就職できるなんてことは想定ない。まぁ、就職はできるだろうし上手くいけば助教授あたりになれるだろうし……まだまだ人生あきらめちゃいけないものだ。対するは、時間……親からの仕送りがない今(大学の授業料は、なぜか出してくれている)、俺はバイトで生活している……週に五日はバイト、そして残りは学校というハードなスケジュールだ。たまには、休みもいれるがな、俺も普通の人間なんだ、休息は必要だろ?
そんな馬鹿げたことを考えながら俺は、ベランダの洗濯物を取り込んでいる。俺の住むアパートは、五階建てのなかなかしっかりしたところだ、なんだかんだ言っても贅沢な馬鹿である。俺は、三階だ。ベランダには、多少のガーデニングが施されている、これは俺の慰めだ。植物は裏切らない、いつも暖かに俺を向かいいれてくれるさ……たぶん。
「いやぁ、夏だねぇ♪ 昨晩干したものが乾いちゃってるよ〜♪」
案外、楽天派な俺だ。季節は夏のまったかだか、せみの合唱が朝から晩まで絶えず聞こえてくる。うるさくてたまらない。
今日は、念願の休日でもある……日光のエネルギーをめいいっぱい吸収し明日からの生活への体力をつけねばならないな。
「やほー、サボテン君。今日もいい日だなぁ♪」
俺のお気に入りのサボテン君である、20cmほどの小さなサボテンだ。なぜか……俺には、こいつににっこりマークが見えてる気がしてならないのだ、だからこそお気に入り。
「いよぉし、おまえも背筋を伸ばすのだ。気持ちいいぞー♪ ん〜〜〜!!」
両手いっぱいに伸ばし、すがすがすぃぃ!!
俺が太陽エネルギーで満たされた瞬間。
「がつん」
がつん?
何かが手にあたったような気がした。
「ひゅー!」
んな!?
気づけば、サボテン君落下!! のぉぉおおお!!!
俺の手が、瓶にあたっちまったってわけか! すぐさま、サボテン君の安否を確認しにベランダの下を覗き込んだ。
えぇーっと……へ…?
サボテン君は、無事なようだって……そうじゃなぁぁぁい!!!
サボテン君のとなりで、女が血を流し倒れているのだ。どういうこと? どういうことでもねぇぇぇ!! サボテン君が頭上に直撃したとしか考えられない!
とにかく、ぱにくりながらも俺は女性の状態を確認に階段を猛スピードで降り始めた。
やべぇやべぇやべぇ!
すでに俺の思考はショートに陥っている、死んじゃってたらどうすんのぉぉ!!
そう、そのことだけで脳内はいっぱいだ。
降りて、外に出ると、上から見たときと同じく彼女はうつ伏せに倒れていた。
「……」
背筋に寒気が通る、俺は血が苦手だ。その血が、過去見たことないほど流れ出しているのだ。そして、俺のもっとも恐れているのは、彼女の死だ。ぱにくった俺は救急車を呼ぶなどという行為すら思いつきもしない。俺は、彼女の脈をはかってみることにしたらしい。
「…………なし」
ぎょわぁぁあああ!! 殺人事件発生です!! ちがぁう! 事件はサボテンで起きているのだ! もう、わけわかんねぇええ!!
俺はさらにぱにくる、とりあえず落ち着かねば……。
深呼吸! しぃぃんこきゅうぅぅ!!
「ふぅ……って……落ち着けるかよ!!」
彼女の状態からして、即死は確実に等しい。
俺の脳裏に、裁判風景までもが浮かびあがってきてしまった。
「た、単なる事故です! さ、サボテンが落ちたんです! 自然に!」
「うそは、いかんな、被告人。君の真新しい指紋がしっかりついているのだよ。それに君は、「落ちたら危険な物をベランダに置くな」という、アパートの決まりを守っていなかったのだ。裁判官、判決を」
「有罪、死刑」
「ぬあぁぁぁあああ!!」
ぜってぇそうなる、俺の予感は悪いことだけは当たるのだ。俺は数秒考えて行動を開始した。
えぇっと、運良く目撃者なし。
まずは、サボテン回収、女も回収、んで血はきれいに洗うと……つまぁり、証拠隠滅。
だって、だって! 今、俺は上がり調子! こ、こんなとこで人生おわしたくねぇんだよ!!
これがどぉーんなに重い罪かは、わかっているつもりだ。すみません!!
俺は、数少ない貯金をかき集め、証拠隠滅計画を立て始めた。
山に埋めるしかない……それも絶対わからないような。ここでも俺は運がいい……元登山部
の力見せてくれる……。
俺は目標地点を、日本の北アルプスに決定した。本当のところ、エベレストあたりにしたがったが……そこまで金がないし、山をなめるもんじゃない……俺なんかが行ける場所じゃない。本来、北アルプスだってそうだ、俺が高校で登ったのは南アルプスだ……北と南では桁がちがうとも聞く……命がけである……もしかしたら、一緒に山に葬られてしまうかもしれない。
俺は、奥深くにしまっておいた、シュラフや杖などを出し、そして登山バックに女を入れる、うまいように入るものだ。登山バックは桁違いの大きさだし、女もさほど大きくない……160cmほどだろうか……ちょっぴりかわいいって!! そんなこと思ってちゃだめだって!!
危うく、俺は死体愛好家になりうるところだった。
準備ができてすぐに俺は、目的地に向かう、できるだけ早くやらなくちゃいけない。
つくづく思う……これって普通の人間がやることじゃないな。俺も変なところで普通を抜け出してしまった。
平常心でいないためかあっというまに、登り口に着いた。
電車の中でも特に怪しまれることはなかったっぽい。まんま登山家として健在することに成功。あはは、なんだか……すげぇな。
シーズンは夏、他にも登山者は大勢いるだろう……通常ルートではだめだ。
少し山中に入り、道をそれる……そして、腰にダンボールなどを縛り紐を巻く、近くの木にも巻く。
つまり、これは俺が帰ってくるための道しるべとなる。周期的に木に回しながら歩く、そうすれば高確率で帰りは伝っていくだけですむのだ。どうだ? なかなか頭いいだろ?
よっしゃぁ、じゃ、犯行の罪を深めるとしますか……。俺は山の奥へと踏み出して入った。
とにかく奥へ、それでいい。
「ふぅ、まだまだだな。しかし……」
すでに時間は、五時……暗くなる前にテントを張る必要がある。飯もだ。
そうはいっても……テントを入れるまでのスペースはなかった。
寝袋だけで寝るしかないようだ。
「どこまで行くのぉ?」
バックを下ろそうとしたところ女の声が聞こえた。
考えられるのは、勘違い、女の霊、幻聴……。
ただの空耳だろうな。
「ねぇ?」
またも聞こえてくる……まずいな、相当俺は疲れている。
バッグを下ろし、なるべくバッグを見ないように腰掛ける。
「おーい」
……確実に後ろから声が聞こえる……恐々と後ろをがちがちと振り向く……。
「やー、おはよー」
なぁにかが、バックから顔を出している、女の顔だが……女は死んだのだからそんなはずは……いやけどこれが事実……。
「あなたは、どなた?」
とりあえず、尋ねてみる。
「それより、お腹減ったなぁ」
そいつは、顔だけ出して飯を要求してきた。
もしかしたら、渡さないと食うとかいうおちかもしれない……神の罰か!?
「その中に、あるぞ。勝手にどうぞ」
食べさせれば、どうにかなるだろ……。
「え、そう?」
なんだか会話が成り立っています……やべぇ……。
「では、いただきまーす!」
にこにこと突如、バッグごと倒れてくる。
「がぶり!」
ぎゃぁぁぁああああ!!
牙が見えたかと思うと、俺の逃げる間もなく俺の首筋に女が噛み付いたのだ。
のろい、たたり……二つの言語が浮かんだが、俺はあまりの恐怖に気を失ってしまった。
「ばっ!」
「はぁはぁはぁ……。え、あ、夢? 夢か……」
起きれば、アパートの自室のベッドにいた。
どうやら、夢……あ、いや……日にちがしっかり、三日ほど進んでいるのも夢でしょうか……。カレンダーが、ばっちりあの日から三日進んでいるぞぉー……。
周りを確認すると、サボテンが室内にあった……げ……。
そして、恐怖がやってきた、もちろんあの女である。
「あ、起きた起きたぁ。やっとご飯食べれるぅ♪」
そいつは、不自然感もなく、俺のベッドの前に立っている。
「待て、少し話せ」
あくまで冷静さを保とうとがんばる俺であった。
といっても俺がここにいる自体説明がつかない……山にいたはずだろ?
「君は、なぜ生きてる? それと何者だ?」
そう聞くと、そいつはよくぞ聞いたっといわんばかりに説明しだした。
「私は、人間ではないでぇす、血を吸いますから。それに私は頑丈なのであんなもんじゃ死にません。あの時は極度の空腹で倒れたところにサボテンが降ってきただけですよ」
つまり、こいつは…………。
「吸血鬼? ヴァンパイアの類か?」
そんなものが、実在するのか?
「ちがいますよ、私は、血を吸う種であり、そんなものではありません」
「同じじゃ!!」
それともおまえは蚊の一種か! 虫かよ!?
「ん?」
しっかしぃ、吸血鬼ってまじか!? ゲームでしか想像つかねぇぞ!!
「で、なぜ俺の家にいる?」
「それは、あなたと契りをかわしたからです」
「知らん」
即答してやった、だってほんとにそんなこと知らん、てか厄介だ。
「しましたよ! あなたは、私に勝手に食べていいっていったじゃないですかぁ」
訴えかけるようにそいつは俺にしゃべる。
あれか! あれがそうなのか!?
「これから、おねがいします。あなたのお名前を聞いていなかったですね」
「おい……それの契約切れないのか?」
「だめでぇす、せっかくせっかくできたんですから」
理由になってねぇよ。俺はしたわけじゃないっつぅうの……。
うむむ……、山からここに運んだのがこいつなら、まじで危ない。
つまり、こいつがまじで吸血鬼の類……まぁ、人間じゃないものってことになるぞ。
それに、すげぇ俺の立場……無視ってねぇか……?
「探すのたいへんなんです、私たちの種の世界では、十八歳になると、あぁちなみにここと同じ歳ですよ。えと、十八歳になるとこっちの世界に血を吸いに行かないといけないんです。十八になったとたんに血が主食になるんです。それまではベジタリアンなんですよ」
い、意味わかんねぇ……。
そんなんだったら最後まで草食動物として生きやがれ。
半ばあきれ状態の俺だった。
「なんだか、よくわからんが……出て……、ん……?」
これは……よぉーく考えろ……何か使えるんじゃないか? というより、幸運好都合?
つまり、この出来事を整理すれば、まず俺は罪を犯していないことになり……さらには、こいつを働かせる手もある……イコール俺の生活は楽になっちゃうんじゃないのか!?
やべぇ、それまじいいよ!
「なんでしょう? ……あ、それよりもお名前を教えてください。私は、人間歳では、十七歳。吸血歳は、十八歳の、現役女の子のレミュール・レンです。けれど、ここでは藤崎 美汐(ふじさきみしお)って言います」
吸血鬼じゃん……やっぱし。んでもって名前はどっちがいいんだ? しかも、微妙に年ちがうじゃねぇか!! 同じじゃなかったんか!?
突っ込みどころまんさいだが……あえて突っ込まないことにした。
「名前は、統一しろ。俺は修平。伊波 修平だ」
「おお! 修平殿でございましたか!」
は?
いきなり、時代劇に影響されたか? この西洋海渡り伝来人。
「あ、あれ……すみません。ちょっとしたおふざけです」
俺がしらけた顔をしたためか、顔を下げる。
どぉーみても普通の……いんや平均値以上のかわいい女の子だ。
性格はよくわからないが、わるくはないだろう。
「しかたない、許そう。ただし、おまえも働け! せめて自分の分はな!」
かわいさに免じて許可だ!
彼女は目を丸くして、
「え? 許し+下僕ですか?」
と、にこにこと言う。
「そうじゃなぁ〜い! おまえも共存するゆえバイトでもして金をかせげってことだ!!」
んー、やっぱぁ……普通の女の子とはどっかずれてるな……。
「おかっねぇなぁ、兄ちゃん〜お金はおかっねぇのよぉ〜」
突然、微笑みながらわけのわからないことを発しだした。
俺は、あまりのことに呆然する。
「あれぇ……うけませんか? うーん、人間はこれで喜ぶって習ったのに……」
と、真剣に悩みだす。
「……普通はそういうこと言わないでぃぃ!」
あきれてものを言えない。言ってるけど……。
「ではでは、二人納得条約締結にちなんで、ご飯パーティを催しましょう!」
そして、俺はあることを忘れていたことに気がつく。すでに時、遅し、伊波修平ここに散る。
「いただきまぁーす!!」
牙がありますぞや!! ギィヤァァァァアアアア!!
そんなこんなで貧血気味になっていく俺であった……。
普通の女の子がいいよぉ〜普通がいいんだぁ。誰か助けてぇ!
俺と吸血鬼の生活は、今ここで俺が貧血で倒れることに始まったのであった……。
END なのかよ!?