第一章―異端者―
「ふあぁ……眠いものは眠いんだもん」
「このごろ、一段と眠りについてるけど……何? 夜のお仕事?」
「はぁ!?」
ギャーギャーと、叫ぶ菖蒲と奈菜の声に起こされた。
「たく、うっせぇな……」
てか、菖蒲のやつは、また寝てやがったのか……寝すぎだろこのごろ。まぁ、俺も言えたもんじゃないか。あいつとは、中学から付き合っている。まぁ、それだけだが。俺の名前は、高島 貴志(たかしま きし)。現在、彼女らしいものなし。それというのは、形上菖蒲とと付き合っているんだが、高校入学後やたら付き合いわるくなったし、なんていうか自然消滅みたいな感じだなぁ。俺の気持ちとしては、なんか悲しいぜ。で、所属部活は、サッカー。ただし、顧問殴って退部中。なんていうか、高校でついてること未だにナッシング。中学とちがい、授業もわけわかんねぇし、どうしたものかねぇ。
部活がないと放課後は、むなしい。遠くにサッカー部を見ると、街に出向いた。家に帰っても、誰もいないし、何もすることがない。昔、つるんでいた友人は、高校に行かないで就職だしよぉ、つまんねぇなぁ。いわゆる、取り残された不良かねぇ。不良やめて優等生にでもなるか、という一瞬の気の迷いがこんなことになっちまうとはな。今の高校には、俺を恐れていたようなやつしかいない、不良なんかいない高校だし、俺としちゃけんかの一つでもやらかしたいもんなんだが。上も絡んでこねぇし。
ゲーセンで、暇をつぶしていると、いつのまにか八時になっていた。暇つぶしが完全に時間食いやがった。どうしたものかなぁ……帰るか? ちなみに帰っても誰もいない、両親は小さいころにある事故に巻き込まれ死んでしまった。姉がいたんだが、それも同時にか行方不明になっている。当時は、ショックをかなり受けたが、今となれば過ぎ去ったことだし、どうしようもないことだ。
真っ暗な公園のベンチに腰を下ろすと、目を閉じる。季節は、夏。涼しい。
「さむっ!」
ぶるりと、寒気がすると俺は目を覚ました。
「やっべ……寝ちまったのか」
さすがにって……そりゃ、二時じゃ肌寒いよな。さて、帰るかなぁ。
無気力に立ち上がると、帰路についた。
俺の家の前に、わずかな光に照らされて、二人の影が見えた。男と女か? 困るねぇ……うちの前でいちゃつかれちゃ。近づくにつれて、何か様子がちがうように思えてきた。てか、あれって菖蒲だよな……なんだってこんな時間に……。菖蒲の様子があきらかにおかしい……む? まさか、襲われてるのか!?
「助けて……誰か助けてぇぇえええ!!!」
うおっと! 確信完了! 突撃!!
もはや、本能で行動を起こした、女が助け求めてりゃ助ける以外に選択肢ないっしょ! それおか、俺の彼女でもあるしなっ! 俺だけそう思ってるのかもしれないけど。そんなことは、今はどうでもいい!
「おらぁぁああ! 何、やらかしてんだぁぁぁあ、金髪さんよぉ!!」
走りこむと、あちらが振り向かないうちにまわし蹴りをぶち込む。ひさびさの快感感覚に胸が躍り出した。卑怯だろうが、先手は必勝だ。
「え、え……あれ、なんで」
菖蒲が錯乱しているが、まだくるだろう。蹴った衝撃でわかったが、かなり鍛えてるような体だったからな。こたえてねぇだろ?
「貴様ぁ……私を蹴り飛ばすとは……」
ぎりぎりと、歯の音を立てながら立ち上がる。新手の脅しか!? あんなに歯音を出す野郎がいるとは!? そっちの道から手を引いているうちにかなり、戦法も変わったなぁ。よし、従来どおりに、
「ぽきりぽきり、女を襲っちゃいけねぇなぁ、金髪さんよぉ」
手首をならして、脅し返してみる。効果はなかったようだ。
「身の程を知れぇぇええ!!」
金髪が、叫び、突進してくる。ぉぉぉ、真正面に来たか! 度胸はあるな、俺の蹴りを避ける自信があるのか!
「どす!」
真面目に真っ向してきやがった、金髪はもろに顔面に俺の蹴り食らって、また吹き飛ぶ。
「ぐは……貴様、何者だ……」
むぅ、このような相手は初めてだ。
「本気で行くぞ……」
ごわぁっと、緑の炎が金髪を包み込む。ちょ、ちょっと待った! さすがにそんなけんかの技、見たことねぇよ! また、突っ込んで来るし! あぁ、もうやけだ!
俺は、足を振り上げると、突っ込んできた金髪の脳天にその足を振り落とした、つまり踵落とし。これがまた、もろに入ってしまう。ちょいまじでやり過ぎた……死なないでくれよ。
「ごふ……く、くそ、なんなんだこいつは……」
よし、死んでない。で、自分の足を見て焦る。靴が、靴が、燃えてる!! ぽぉっんと、投げ捨てた……てか、まじで炎だったのか!?
「どいてっ!」
声のした方を見ると、菖蒲が……両手に銃を構えていた!? 思わず、飛び退く。
「ズガガガガガガァァァァ!!!!」
ぐは! 眩しくて見てられない!
菖蒲の銃からは、弾でなくものすごい光が何百発も間もなく飛び出た。
「はぁはぁ……やっと、動けた……」
ぽか〜んと、している俺に背を向け、何やらやっている。
「く、魂の結晶がない……逃げられた」
「お〜い、菖蒲、菖蒲君」
呼びかけるが反応がない、てか無視ってやがる。
「二人が無事だといいのだけど……うん、探そう」
何か走り出しそうだったので、肩をつかんだ。
「くぅぉらぁ! 無視するな、菖蒲!」
「あはは、菖蒲? 誰のことでしょう?」
ぐるりと、回転させる。
「もう顔見てるからな。さっさと、こっち向け」
まだ、ばれてないとでも思ってたのか? くるりとこちらに向きを変える。
「なんで……この辺には結界があるから、気づかないはずなのに……」
「なんでもいいが、なんで銃なんか持ってるんだ?」
「いや、おと……ささ」
今さら、隠してもしゃぁねぇだろ……。
「あぁ……まぁいいや。ごめん、記憶消すねっ!」
ばっと、俺の顔の前に手を広げる。
「よし、OK」
「何がOKなんだ?」
「はえぇ!? え、え? なんで、気絶しない? まぁ、いいや……私は銃なんか持ってるはずないよね?」
「いや、持ってた」
「はえぁ!?」
なんだか、目が点になってるぞ、こいつ。
「なんで、なんで!?」
それは、こっちが聞きたいことが山ほどなんだが……。
「あ、菖蒲、無事だったんだ……よかった」
うおぉあ!? いきなり、どこからともなく青い髪の流血男と、そいつに肩をかしたごつい体をしたおっさんが現れた。
「大丈夫だったんですね……」
「あぁ、なんとか代物で逃れられた」
「あはは、未熟な僕は、この有様だけどね」
はて、しかし、あれだけ血みどろで死んでないとは、なかなか……いや、なんかちがうな、そこ焦点じゃない。
「すいません、隊長。私、疲れちゃったみたいでこの人の記憶が消せないんです」
「うむ……任せておけ」
流血男を菖蒲に預けると、ずかずかとこちらに近づいてきた。
む、やるのか!? なんとなく身構えてしまった。
「ふん!」
ばっと、菖蒲と同じように大きな手を俺の顔の前に広げる。うわ〜、押しつぶされそう。
「む? ふん! ふん! ふん!!」
そんな何度もばっばっばっばやられても困るんですが……。
「ええい! うざい!!」
大きな手を弾いた。
「おかしいな……こいつ、何者だ……まさかとは、思うがミキリルを追い返したのは、こいつか? 救援はまだ来てないのか?」
「え、あ……その、救援はまだで……」
「なんでもいいんだが、ミキリルってのはさっきの金髪か? それなら足腰立たねぇくらいにはなったと思うけどな」
てか、最後は、菖蒲に撃ち殺された気がするんだが……跡形もなくな。
「馬鹿な!? 僕は、あれに攻撃を与えることすらできなかったのに!? 君はただの人間だろっ!?」
流血男が、血相を変えて叫び始める。なんとな〜く、理解はしてきたんだがいまいちだ。
「仕方ない、殺すか……」
て、おっさん。殺すって俺か!? てか、もう剣を振り上げてまたこっちに来るし。
「ま、待ってください! そ、その人は!」
「何か問題があるか? 仕方あるまい」
いや、問題ありすぎ、というより俺は菖蒲を助けたんじゃないのか!? で、殺されるの!? 意味不明だよ!!
「びゅん!」
ギャー!!
「――っ!?」
瞑った目を開けると、おっさんが驚愕の顔をしていた。咄嗟に出た右手は、その剣を受け止めていたのだ。うわっ、剣を止めちまったよ、片手で!
「な、なんなんだ、こいつは……。鬼神? いや、鬼神の感じはない……」
何事もなかったように、二人の元に戻っていった。
「これだけ待って、来ないとなると、救援には伝わっていないようだな……一先ず、私はクルスをあちらに届けてくる。菖蒲は、そいつを監視していてくれ」
びゅんっと、おっさんと流血男が闇の中に消えていった。
「監視ねぇ」
「はうぅ……ばたん」
お、おい! なんで倒れるんだよ! 監視人がいきなり寝てどうするねん!
なんかこいつの近くにいないとまずそうなので、俺の家に上げることにした。適当にソファーに寝かせると、俺は、時計に目を向ける。
四時かよ……こりゃ徹夜だなぁ。監視が逆の形になっちまった。起きないかねぇ、いろいろと疑問でたくさんだ。
ふと、寝ている菖蒲を見ているのが恥ずかしいようなやましいような気がしたので、ゲームに走った。俺との付き合いが悪いのは、何やら危ない仕事をしているからなのか? ゲームにも集中できん。困ったものだ。て……そう考えると、俺って菖蒲大好き野郎!? いやいや、まんざらでもねぇが冷めたような……いやいや。良い機会だし、起きたら俺とまだ付き合っているのか……そこだけはっきりさせておこう。
あくまで現実に主旨を置こうとする俺であった。
続く・・・