第二章―学校での出来事―From Ayame

 

「ん〜?」

 目覚めると見知らぬ天井が目に映った。

「あれ……ソファーで寝ちゃったんだ……」

 はて? 家にソファーなんてあっただろうか?

「よぉ」

 なぜかは、わからないが貴志君が顔を覗きこんできた。寝ぼけた頭は、未だ夢の中とでも言うのだろうか? と、少したって私の思考が回復。そう、昨晩は危ないところで〜って、つまりやっぱり貴志君だったのね……。う〜ん、だけど信じられない。彼は、鬼神ではないし、あの時武器を生成したりもしてない。普通に素手で鬼級と対等、いやそれ以上の力を出していた。もし、彼が鬼神の素質があるなら、何か感じるのに……まったくの普通の人間。

「お〜い、帰って来い〜それともまだ寝てるのか〜?」

 貴志君の声でふと我に返る。

「あ、あ、えと……ど、どうも」

 わけわからない、お礼なんか言ってる。

「まぁ、なんだ。昨日のことでも教えてくれないか?」

 それは、私が聞きたいくらい。けど……危ないところだったんだよね。助けてもらったっていうのは、事実だし……一番助けられてうれしい人でもあったし。

「なんだか、悩む少女になったのか?」

「はえ!? って、少女とかまた言ってる!」

「おっと……ど〜も、おまえは子供っぽいのでな」

 確かに、貴志君のが大人っぽいけど、私だって子供じゃない〜。けど、なつかしい感じ、このごろ話もしてなかったからなぁ。

「まぁ、昨日のことはいいや。なんだかわからねぇが、あっちからなんか来るのだろ?」

「え、まぁ……って、すごく冷静なのね」

「慌ててほしかったか? 彼女が魔法少女だった……それだけのことだ」

 と、そのまま考える人のポーズをとる。

「また、少女とか!」

「なら、魔女」

「それも、ちがう!」

 言いあいになっちゃうと、私には勝てない。昔から、一枚上手なんだよね、こいつ。

「後でちゃんと説明するから……」

 どっちにせよ、たぶん記憶操作されちゃうからいいけどね。

「ふむ、では、別件。はっきりさせたいことがあるんだが」

「なぁに?」

「俺たちって付き合ってるのか?」

「…………」

 ま、まずい……そりゃそうだよね……高校入って、鬼神になってからまったく話してないもの。あう〜、ど、どうしよ。

「ん? て、そろそろ学校か」

「え、学校!? うん、そだね!?」

 近くに置いてあった鞄を手にとるとずばっとその場を切り抜ける。

「お、おい! そのまま行くのかよ!?」

 あぁもう、テンパりすぎ! 

 頬が火照るのを感じ、猛烈ダッシュ。髪の毛とか学校で整えよう、服はもう解除されてるから戻ってるから、大丈夫。よし!

「ガチャ、バタン」

 乱暴にドアを閉めると、颯爽と道路に出た。

「え」

 同時に、聞き覚えのある声が聞こえる。

「あ、おはよう。奈菜♪」

 ちょうど良いところに奈菜がいました! これで普通に学校に行ける♪

「あのぉさ、ここ、高島君の家だよね?」

「え、う、うん。そうだね」

 何を呆けているの? 

「ガチャ、おい! 菖蒲、それ俺の鞄だ!」

「ふぅん、朝帰りなんて、菖蒲もやるねぇ」

 朝帰り? はわ? あ、あぁぁあああ!! 

「ち、ちがう!」

「何が?」

「はうあ!」

 何か変な声が飛び出した。頭は、ショート、ヒートアップ。言い訳……ちがう、言い訳も何も誤解! 何を? って、えとえと!

「お盛んなことで、高島君」

「ん? 朝倉か。それは新手のあいさつか? まぁ、言わんことはわかった。安心しろ、やましいことはしていない。ただ、朝起こしてくれと頼んでおいただけだ」

 おお、さすが私の彼氏! ナイスッフォロー!

「それを信じろって? 特大ニュースなのに」

「信じろってな。朝起こしてくれるのは、彼女の特権だ」

 ちょっと意味がわからない。

「まぁ、なんだ……わかりたけりゃ、おまえも彼氏作るんだな」

「け、黙れ下種が」

 この手の話にもってくと、奈菜は壊れてしまう。容姿も申し分ないのに、未だに彼氏ないのはそこんとこが原因じゃないのかな……。

 なんとか、精神を保てた。危ない、取り乱しすぎ私。

「また、学校でね。アヤメ」

 うぅ、なんで睨むの……。

「ほんじゃ、行くか」

「は?」

「は? ってな……たまにはいいだろが」

 なんだか、ひさしぶりで恥ずかしいよ。

「ほれ、鞄返せ」

「あ、ごめん」

 て、私、授業の用意とかないじゃん……家に戻ったら間に合わないし。仕方ない、誰かに借りて今日は、凌ごう。よく眠れたような気もするし……。

 

 

 始終無言。手すら繋げなかった……うあ〜私の馬鹿。教室に入ると、いつもの調子に戻った奈菜に捕まる。いつもの世間話的な会話がスタート、リピートされる。結局のところ、やっぱし寝ちゃうもので、あっという間にお昼休みになってしまった。

 お弁当もお金もないのでどうしようかと、している時だった。

「――――っ!」

 異物の気を感じた。昨日と同じ……あの鬼級のだ。忘れもしない、あれだけの縛りは……。

「ど、どうしたの? 菖蒲?」

「え、うん。なんでもない」

「なんでもないって、なんか顔青いよ」

 ちょっと保健室に行ってくると、席を立つと、新鮮な空気を求めるかのように、気が薄い方へとよたよたと歩き出した。

「はぁはぁ……」

 まずい、つけられていた……私としたことが。昼間は、鬼神の力が使えない……太刀打ちなんてできない。とにかく、見つからないように、逃げないと。

「おい、菖蒲」

「はわ!?」

 な、なんだ、貴志君か……いきなり出てこないでよ。

「何、慌ててるんだ?」

 やっぱし、何も感じてない……昨日のはなんだったんだろう。その瞬間、ずんと重圧が強まった。まず、このままじゃ、歩けなくなっちゃう……。

「肩、貸してやろうか? なんだか、調子悪そうだなぁ」

「あ、ありがとう……」

 引きずられるように、歩き出した。まだ、私には気への抵抗力がない……まだまだ未熟。

「おやおや〜勝手に私の獲物持ってかないでほしいなぁ」

 う、最も聞きたくない声が目の前から聞こえた。顔を上げると、にこりと笑うミキリルが……。

「うあ、あんたなんで制服着てるんだ!? ここの学生だったのか!」

 いきなり普通に突っ込みだす貴志君……まずいよ、逃げてよ。絶望的。

「好き好んで着ているのではない。ここで一番目立たないカッコのようでな」

「何!? コスプレマニアか! てか、金髪とかありえねぇから!」

「黙れ! というより、君は昨日の!」

 ばっと、跡ずさる。昨日のことは夢じゃなかったみたいだ。けれど、すぐに、

「くくく、昼ではないか」

 と笑い出した……、そうあっちは昼でも健在。普通に力が使える。

「昨日はお世話になったな……」

「どうも。てか、暴漢さんよぉ」

「な!? 暴漢だと貴様! 私は、食事を!」

「何!? さらに危ない感じだ! まぁ、いい。なんでもいいけど、殺すとかそういうわけだろ?」

「話がわかるな鬼神」

「俺は、キシだンとかつけるな。てか、なんで俺の名前知ってるんだ?」

 いや、ちがうって。こんなとこで笑わせないで……。

「ふふふ、だが殺しはしないさ。昼間からやると面倒でな。夜にでもゆっくり……」

「どっちにせよ、殺すんじゃねぇか。てかよぉ、異世界人さん」

「ちがうな、我々はエリクリア」

「はぁ? 我々は地球人だとでも言うのかと思ったのに、残念だ」

 なんか、貴志君がいつもどおりに口押しし出してる。

「あのだな、人間。いや、鬼神……まぁ、いいどうせ貴様らには共存など唱えられぬのだからな」

「なんだか、わからねぇが……さっさと帰れ」

「帰れ? 馬鹿か? 貴様らは、力が使えないのだ。逃げるも何もないだろ? おまえは脅威だったが今となれば余裕だ。女はもらっていくが、貴様には礼がある」

「礼などされる覚えはない」

「死ね!」

 しゅんっと姿を消す。鬼級……ついていけるはずがない。私には、何も見えなかった。

「がすっ!」

 鈍い音が聞こえ、私は目を瞑った……。

「な、なぜだ……貴様ぁぁあああ!!」

「うるせぇなぁ……吠えるなよ学校だぞ。てか、おまえさぁ、いっつも馬鹿正直に正面から来るんだもんなぁ」

「なぜ、私に攻撃が出来るのだ……?」

 貴志君……まさか、昼でも行動できる鬼神……それは、幾たびの戦時を乗り越えてきた者だけが得れる力……オーバーエルメトナス。手の指で数えられるほどしかいないと聞いている。それを初めから使えるってこと!?

「貴様、力の解放も感じない……なんなんだ、この女と言い異端者が多すぎる……」

「何、言ってんかわからねぇ」

「貴様……まさかとは思うが、エリクリアではないか?」

「悪いが、俺は人を食う種ではない」

 力の解放をしていない……あ! 鬼神の素質覚醒の時に私は、他の鬼神に力を受けてその力に反応して力を覚醒させた。つまり……って、もし貴志君が力を秘めていたとしたら……どんなになっちゃうの!?

「おっと、そういえば失礼。重圧かかってたんだね」

 ふわりと、私への重圧が消えた。私は、銃も出ないのに身構える。

「そう、構えるな。私としたことが気配を消すのを忘れていたのだよ。あまり、出すといろいろ面倒だからな」

 ここは、逃げるのが普通なんだろうけど……貴志君はそんな感じは見せない。話を聞いてて本当に理解しているのか、たぶん自分なりに解釈しちゃってるのかもしれない。けっこう、自己中心的な世界を形成してる人だから。

「む、少し人が……」

 いつのまにか、周りには人が集まり出していた。「けんか?」「なんだあの金髪」とかいろいろと言葉が飛び交っている。私としては、幸運だった。これだけ騒ぎになると鬼級が襲い出すことはないだろう……異物のように知恵がないわけではないからだ。こんなことを言うと反逆と見なされてしまうけど、彼らも人間の中から出てきているらしい。基本、私たち鬼神と変わらない。変なところで紳士的な面もあるという。

「ち……」

 ミキリルは、舌打ちをすると勢いよく窓をぶち割って外に逃げていった。全然、紳士的じゃないわ……。

 騒ぎは、大きくなる一方だったので私は主要人物とならないようにこそこそと人ごみの中を掻き分けて行った。貴志君とはいうと、いつのまにか姿をくらましていた。なんていうか、彼は逃げたり消えたりするのは得意。やっかいごとは、絶対ごめんな人間。

 うまく助かったけれども、完全に所在をつかまれてしまった。ミキリルは、私を狙っている。また、昼間に来られたりしたら……いや、夜でもあれには勝てない。鬼神の世界に少し逃げ込むべきか……。いろいろなことで錯乱していた。

 

黙々……