挨拶代わりに些細なデジャヴを + 第四章
| しばらくの間。 柊という男はビルの屋上で星空を眺めていた。 冷たい風が肌を刺し、月の光に白い肌が浮かび上がらせた。 そして、柊は立つ。 欠伸を一つ。 普段ならもうとっくに寝ている時間だ。 しかし今夜は大事な用があったために、寝ずに起きていた。 慣れないことをしたためか、頭がすっきりとしない。 しかし、心は晴れ晴れとしていた。 「久しぶりだったけど………無事で何より……」 柊は呟いた。 正確には無事ではない。 でも、柊的には無事なのだ。 これが一番に良い終わり方だった。 自分ひとりがこっぴどく怒られ、 そのおかげで人一人の命が助かるのだ。 「ふぅ………」 我ながらすごいと思っている。 命を救った(そのほとんどは命令無視による)あとは、いつも自分を褒めてやる。 柊とはそういう男だ。 『余りにも自由人』 それが一番良く似合う男である。 月を仰ぎ、微笑む。 そして、誰に言うでもなく、呟くように、 ただ、呟きにしては大きな声で、柊は言った。 「星が綺麗だねぇ………」 柊は翼を広げる。 それは人でない証。 人にあらざる人のみが与えられる死と生命の象徴。 その柊の背から生えた巨大な翼は、 黒く。 ただ黒く。 夜の闇よりさらに深く、爛々たる 下手な白より、より清い。 真の漆黒の天使の翼。 柊は夜空に羽ばたく。 屋上の床を蹴り 翼で空気をかく。 空に踊りだした柊の姿は、 まさに天使か、はたまた悪魔か、 それとも、それとは別なまた違った生き物か それは誰にも分からない。 ただ柊は 次第に夜の闇の中に帰っていく。 ただ、それだけのことだ。 |