盲目の天使 編 +第二章


その日、偶然にも陽子は暇だった。
 生徒会が最も忙しい行事である生徒総会も無事に終わり、事後処理も終わった最初の日曜日である。
 別に友達が少ないわけではない。別に誰かを誘ってもよかった。
 しかし、彼女はそれをしなかった。
 なんとなく、一人で出歩きたかったのだ。
 そう、別に深い理由はない。
 一人で街中をうろちょろしていたのも、
 偶然その町に立ち寄ったのも、

 そう、おそらくは、
 その男に出会ったのも。

 時間は午後三時。
 ちょっと早めの昼食をとった後のお茶時。どこかお店に入ろうかと考え、商店街に足を向けていた。
 そこはさすがに日曜の午後。家族連れからカップルまで、幅広い層の人々が、店を覗き、道を歩いていた。
 陽子も、その人の波に習って歩き出す。
 向かうは『和風喫茶月=x。最近人気のスポットで、普段はあまりここには来ない手前、一度いってみようと思っていたところだ。
 そして、アーケードを通り、歩いていく。
 と、
 目の前に男の姿が見えた。
 その男と言うのが実に奇妙であった。
 まだ残暑残る季節だと言うのに、その男が羽織っているのは、こともあろうに黒のロングコートだ。
 しかも、身に着けているものは、Yシャツからズボン、靴に至るまで真っ黒だった。にもかかわらず、肌は白く、髪は金髪の、まるでフランス人の髪の毛のようだった。
 このときは、その男は陽子にとって、ただの風景でしかなかった。何の変哲もない日曜の午後の街の、ちょっと変わったアクセントでしかなかった。
 変に、その男に気が向いてしまったのは、気まぐれか、はたまた偶然だろう。
 しかし、非常に残念な事に、その男、柊にとっては、陽子は風景でもなければ「その他大勢」でもなかったらしい。
 それは本当に残念な事で、陽子にとっては不愉快。柊にとっては愉快でしかなかった。



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