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盲目の天使 編 +第三章


 二人の距離が縮まる。
 一歩一歩。確実に進む陽子。そして、その瞬間を今か今かと待ち続ける柊。
 そして、
 「やあ。」
 柊は、陽子に声をかけた。
 期せずして呼び止められた陽子は、不覚にも歩を止めてしまい、
 「はい?」
 と返事をしてしまった。
 「君は運命を信じるかい?」
 その男は言った。
 「はい?」
 陽子は聞き返した。
 「あっは!」
 特徴的な短い笑い声。陽子は軽く身を引いた。
 「質問に質問で返すのは無粋だね。」
 「…………なんですか?…」
 そりゃそうだ。
 突然「運命を信じるか」なんて聞かれても困る。
 「だから、僕は君に聞いているんだよ。運命を信じるか、と。」
 男はぬけぬけと言う。
 そして、陽子はこれに悟る。
 「すいません。私、宗教とかには興味ないんで。」
 と言って、陽子を男の脇を通り過ぎようとする。
 「まあ待ちたまえ。」
 柊は、陽子の腕を掴む。
 「離してください。これは立派な犯罪ですよ。」
 強い口調の陽子。
 「う~ん。なかなか冷静な判断だ。ただの女子高生とは思えない。実にいい種だ。」
 陽子は柊の手を振り解き、歩を進める。
 「ちょっと待ってくれよ。」
 無視。
 「ん~………」
 腕を組み、ちょっと考える柊。
 大袈裟。というよりはお約束のその格好は滑稽にも思われた。
 そして、
 走り寄る。
 「ちょっと。」
 「もう!一体何なんですか!」
 「ちょっとでいいから話を聞かないかい?必ず君の役に立つから。そうだ、立ち話もなんだからどこかのお店に……」
 この発言に対して陽子は、激しく憤慨しながら言う。
 「私は、宗教にもナンパにも興味はありません!近づかないでください!」
 「そんなんじゃないってば、とりあえずお茶ぐらい良いじゃないか。」
 いい加減にしつこい柊に対して、とうとう陽子がキレる。
 「お断りです!」
 激しい剣幕で睨まれる。
 さすがに黙る柊。
 沈黙。
 
そして、柊は一つ溜息をつくと、ポケットに手を突っ込んだ。
 なにやら、ごそごそとポケットをまさぐり、紙片を一枚取り出す。
 「これを君にあげよう。」
 そう言って柊が差し出してきたものは、この商店街の商工会主催の福引大会の券だ。
 「なんですか。」
 「福引券。」
 「そんな物は見れば分かります。どうしてそれを私に渡すんですか。言っときますけど、キャッチもお断りです。」
 冷たい視線を柊に投げかける陽子。
 「大丈夫。これはただの善意だよ。」
 「…………」
 さらに不覚にも、その券を手にとってしまう陽子。
 その次の瞬間。
 「じゃね!」
 と言って、柊は走り去る。その逃走劇疾風のごとく。
 「あの!」
 といった時には、陽子の視界から、その黒い男は消え去っていた。
 陽子は、自分の右手に握られた券を見て思う。
 何だったのか。
 と。



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