盲目の天使 編 +第四章
その福引券は、有効期限が今日だった。 抽選場所は、最近若者の間で有名な「喫茶Calm Rippl」の隣の空き地である。残念な事に、『和風喫茶月=xとは逆方向だったが、せっかくの券を無駄にはできず、抽選所に行く事にした。 実に律儀な少女ではある。 そこは、特に人が多かった。 と言っても、その人々は福引をするために並んでいる、と言うわけではなかった。 何でも、ついさっき一等の温泉旅行を見事に当てた人がいたとかで、それにあやかろう(寧ろ野次馬根性)と黒山の人だかりができていたのだ。 陽子はそんな中、人を掻き分けて、抽選所に辿り着いた。 空き地に立てられたシンプルなテントの中には、長机に抽選機。そして、紅白のハッピを着た胡散臭そうなおじさんが三・四人だ。 テントの奥には、色々な商品が置かれており、側面に吊るされている商品表の一番上の「豪華温泉旅行!三泊四日!」には、黒マジックで真ん中に線が引かれていた。 陽子は、券を机に出した。 「お願いします。」 それに反応したおじさんが、「はいよ!」と言って、抽選機を引き寄せてくれた。 陽子はハンドルに手を掛ける。 「ゆっくり一回回すんだよ。」 「はい。」 指示通り、ゆっくりとハンドルを時計回りに一回回す。 ガラガラと、大量の玉が機械の中で踊る。 一回転。 陽子はゆっくりとハンドルを回すペースをダウンさせる。 すると、穴から青い玉が一個、飛び出した。 しばらくの沈黙の後、おじさんはその玉をしばらく凝視して言った。 「五等当たり〜!。『喫茶Calm Rippl』のシフォンケーキセット引換券!」 周りから「おぉ〜」と歓声が上がる。 陽子はしばらく目をぱちくりさせていた。 「え?え?」 「ハイお穣ちゃん。これで、隣の喫茶店でお茶でもしていきな。有効期限は今日中だから気お付けるんだよ。」 そう言って手渡された券は、名刺サイズの黄色い厚紙で、表面に『喫茶Calm Rippl 特製シフォンケーキ無料引換券』と印刷されていた。 某有名週間雑誌にも紹介された『喫茶Calm Rippl』のシフォンケーキは、今巷で絶大な人気を誇っていたが、数量限定のため、なかなかありつくことのできないレア商品となっていた。 陽子は横を見る。 そこにある店の名は。 『喫茶Calm Rippl』だ。 |