盲目の天使 編 +第六章
特製紅茶を注文した柊は、実に旨そうに紅茶を啜る。 そして、届けられたシフォンケーキをやっと食べだした陽子は、このあまりにもおかしい事態に疑問詞を担ぎ出していた。 「もう一度聞くけど、君は運命を信じるかな?」 沈黙を破ったのは柊の声。 陽子は顔を上げ、柊を見る。 「信じません。」 きっぱりと断言する陽子。いささか不機嫌だ。 「なぜ?」 追求する柊。 「なぜって………」 言葉に詰まる陽子。 「だって、運命なんてありませんから。無い物を信じろっていうのは無理な話です。」 「運命なんてない?どうしてそんな事が断言できるんだい?」 「ないものはないんです!」 「でも―――君も気付いていると思うけど、僕とのお茶を嫌がった君が、こうして偶然にも*lとお茶をしていると言う事実。これは否定できない事だよ。まさか、本当に偶然の一致などとは思っていないだろう?」 無意識に、陽子の鼓動が高まる。 そう、それが疑問だった。 こうして、陽子と柊が喫茶店で席を共にしていると言う事実。 偶然なのか? 全ては偶然の一致なのか? 柊は、福引券を陽子に渡しただけだ。 偶然ではないとすると、福引所のおじさん達が怪しい。 もしかしたら、機械に何か仕掛けがあったのではないか? でも、その後喫茶店に入った時、なぜカウンターがいっぱいだったのか? 一人で来れば、当然ボックス席になど近寄らない。カウンター席でことは足りる。 だが、そのカウンター席は一つ残らず埋まっていた。 だが、逆にボックス席は全くの無人だった。 だとすると、カウンターに座っていた人々が怪しい。 しかし、その後はどうだ? 図ったように店内に流れ込んできた人々、彼らはどうだ? 彼らが来なければ、陽子は相席をする必要なんかなかった。と言う事は、その数多の人々が怪しい。 しかし待て、では、よしんぼ陽子が相席をする事になって、店員がなぜ柊を連れてきたのか?客ならば他にもたくさんいた。その中で偶然にも、柊が選ばれたのか?逆に、なぜ店員は柊を連れて陽子の席に近づいたのか?他にも相席できそうな席はある。その中でなぜ陽子の席を選んだのか?だとすると店員が怪しい。 ここまで考えると、全ての事柄が怪しくなってくる。 全てを疑い。 全てを信じない。 だが待て。 よく考えろ。 そうだ、おかしな事だ。 よく考えてみれば、こんな螺旋思考なんて、実は何の意味もないことに気付く。 そう、この福引券を手にしたのは陽子自信だ。 この胡散臭そうな券を使おうと思ったのも、元はと言えばこの街に足を向けたのも。 全ては自分で決定した事だ。 |