盲目の天使 編 +第七章


 「気は済んだかな?」
 はっと我に帰る陽子。目の前では、美麗な男がテーブルに肘を着いて微笑んでいる。
 「さて、もう一度聞こうか。君は運命を信じるかな?」
 「…………」
 陽子は俯いて黙り込む。
 「……ふぅ……」
 と柊は溜息を一つつくと、窓の外に目を遣る。
 「君がまだ信じようとしないから、これから不思議な事が起きる事を君に教えよう。」
 陽子が顔を上げた。
 柊は窓の外を見たまま再び口を開く。
 「あそこに少年が一人。おそらくは三・四歳かな?可愛そうに、母親とはぐれてしまったらしい。」
 陽子も外を見る。すると、道路を挟んだ反対側に、風船を持った少年がおろおろとしているのが見えた。
 「だけど、主人公は彼ではない。」
 少年の後ろから歩いてきた男が少年にぶつかる。
 少年は前のめりに倒れ、手に持っていた風船を放してしまった。
 男は何か言いながら少年を抱き起こしているが、柊の興味はそっちではない。
 「ほら。風船が昇っていく。」
 目線を上げる二人。
 「このままでは風船は遙彼方に一人旅に出てしまうが、早くも邪魔者がきたらしい。これから彼らを襲う運命とはいかに。そして、風船は無事に少年の元に帰れるだろうか。まあ、答えは帰れる≠セけどね。」
 柊は言った。「風船は少年の手の中に帰る」と。
 確かに
 そう言ったのだ。
 
 昇る風船。そして、一羽のカラスが、その風船に近づいていく。
 カラスは口になにやら枝のような物を咥えていて、風船が見えていないらしい。
 そうして、カラスと風船が一点で交わる。
 その瞬間、カラスの口の異物に風船の紐が絡まった。
 違和感を感じたであろうカラスは嘴を引く。
 すると、風船がグンと下に引かれるが、浮力でまた昇ろうとする。そんな事を何度か繰り返していると、風船の紐が、カラスの羽の間に挟まれた。
 泣き声を上げるカラス。しかし、紐は取れることなくされにカラスに絡まっていく。
 混乱したカラスはじたばたと空中で暴れるが健闘空しく、羽根に完全に絡まった紐が、カラスを地面へといざなう。
 急落下するカラスと風船。
 そして地面(アスファルト)に激突。カラスは短い悲鳴を上げる。
 その頃には、少年は立ち上がっており、傍らには母親らしき人物。目の前の男は頭を下げ、母親も頭を下げていた。
 そこに落下してきたカラス。
 驚く三人。
 そして男がカラスの紐を解き、風船は少年の下へ、カラスは空へ帰った。
 そして、目の前の男が口を開く。
 「めでたしめでたし。」
 もちろん、一番驚いているのは陽子だ。



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