遺愛の国のアリス 編 +第二章
暫くすると、少しずつではあるが雪が降り出していた。 暖房の効いた室内から見れば、年甲斐も無く興奮するだろうが、今は、その粉雪が悪魔の四肢ブキに見えて仕方がない。 幸い、視界が悪くなっても、この状況ではあんまり関係は無いが、どう言ったって僕の服装は制服だ。寒さが否応無く体温を奪う。 僕は少しでも体温を上げようと、一歩一歩を大きく、力を込めた。 だがさすがに、この程度の運動は、この気温だと、息は上がるものの寒さを和らげるには足りないようだ。 吐く息が目の前で霧散する。 その白い湯気は自分の寿命を暗示しているようで、否に儚く見えた。 僕ははっとして首を振った。 何を考えているんだ。 悲観的になるな。自分は今死にそうか?息絶えそうか?絶命しそうか、事切れそうか? いや、死ぬ気なんてサラサラないじゃないか。 見くびるな。自分に自信を持て!お前は死なないだろうが! 自分に言い聞かせる。いや、これはもうほとんど自己暗示的命令だっただろう。 息を整え戻して、渾身の一歩を踏み込む。 ザクッと、新鮮味にかける摩擦が足を伝う。 そして、ふと、前を見た。 白い白い風景の一部に、全く切り取ったようなカラフルなシルエットが一つ僕の目に飛び込んできた。 それは、この雪原にしては余りにも不似合いな物体だった。 それを一言で言い表せば『遊園地の着ぐるみ』だ。 太めの胴体に、巨大な手足、そして乗っけたようなずんぐりとした頭部。服装はファンシーに装飾した燕尾服に杖、ズボンのポケットからは金時計の鎖が垂れ下がっている。 ただここで問題なのは、その頭が二つということだ。片方はシルクハットを被った白兎、もう片方は片眼鏡をしたダックスフンドのような犬。それはまるで一つの人形の首に二つの頭を縫い合わせたような格好だ。 そして、さらに問題なのは、その二つの頭が『明らかに生きて』いて『明らかに言葉を発している』ということだ。 |