遺愛の国のアリス 編 +第四章

  そのイキモノは僕にその大きな手を差し出す。
 「君を我らが楽園の新たな住人として迎えよう!」
 僕はゆっくりと、垂れ下がった自分の腕を上げる。
 「ここは素晴らしい!君もきっと気に入るはずだ!」
 もう何も考えられない。
分からない分からない分からない。
自分が分からない。
いったい何をすべきなのか。
どうすればいいのか。
僕の頭は、熱に当てられた飴細工のように不細工に変形していく。
「ここは寒いだろう!」
「向こうは暖かい!」
僕の脳みそが悲鳴を上げている。「助けてくれ」と。
ここに救いは無い。
でも、目の前に救いがある。
遊園地の着ぐるみのような、不気味に大きい手袋をはめた掌が、僕の脳みそを誘惑する。
「掴め。その手を掴め。求めろ求めろ。救いを求めろ。」僕の脳みそが渇望する。
その差し出された手に虚空の救済を求めて、僕の右手がゆっくりと差し出される。
「「さあ行こう!我らが楽園ヌーヴェル・リュンヌへ!!」」

『いけないねぇ……』

不意に声が聞こえた。
僕ははっとして差し出した右手を引っ込めた。
目の前のイキモノは眉をひそめる。
「どうしたのかな、急に。」
僕は目の前のイキモノを見る。
それは到底この世に存在するはずもない化け物だ。
「寒さで気が触れたのかもしれないよチャールズ。」
それが喋っている。頭を二つ付けた気持ちの悪いイキモノが目の前で喋っている。
「まさか。それは無いさワトソン。」
何をやっている!
お前は誰だ!
・俺は神田伸彦だろう!一体俺は今何をしようとしていた!?
そうだ!よく見ろ!よく考えろ!お前は!俺はいったい何をしているんだ!
「でも分からないさ。早々にイシビヤラに連れて行ってお医者様に見てもらおうじゃないか。」
「ああ、名案だねワトソン。」
思い出せ思い出せ思い出せ!どうしてこんな事になったのか!
考えろ考えろ考えろ!今どうすべきか考えろ!

『とりあえず逃げれば?』



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